HUKUROU書斎 Piaoriyongの日常

池袋で牧師をやっています。クリスチャンとして、牧師として日常を綴る

教理史12 中世末期の思潮

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トマスの死(1274)から宗教改革の舞台へのルターの登場(1517)までの約二世紀半の過渡期は教理史においては極めて重要である。唯名論的スコラ学、総会議至上主義、ルネッサンス・フマニスムなどの新思潮が台頭し、いずれも伝統的な中世神学に挑戦し、結果としてトマスに代表される普遍主義、教皇至上主義への対抗勢力となり、プロテスタント宗教改革の背景ともなる。

 

1.唯名論的スコラ主義

トマスのスコラ学が「普遍は個に先立つ」として普遍主義に立ち、主知主義に基づく「信仰と理性」理解から神学と哲学の究極的調和を求めたことに対して、「個は普遍に先立つ」(あるいは、普遍は名目にすぎない)として唯名論が台頭し、また、主知主義に対して主意主義に基づく意思や愛を問題とする伝統を築く。フランシスコ会士ドゥンス・スコトゥスはトマスにおける普遍実在論や神学と哲学との調和の理念には理解を示しつつも、基本的にアウグスティヌス主意主義に立ち、また、アンセルムス的な演繹法に基づき、神学上の諸問題を哲学から神学領域に移して意志や愛を問う実践的神学を築いた。同じくフランシスコ会のオッカムは、実在の認識は「直観」に基づくとして、そのような認識に基づかずに啓示に基づく神学は厳密には学的妥当性を有せず、信仰における真理探究の学問として、神学と哲学の分離を説いた。

 

2.総会議至上主義

唯名論を教会論と教会改革に適応し、教皇至上主義に対抗した思潮。オッカムが信仰者の共同体である教会と制度としての公同教会とを区別し、前者が後者に先在するとしたように、諸教会の代表による総会議の公同教会の代表である教皇に対する優位性を説き、後の宗教改革に大きく影響を与える。

 

3.ルネッサンス・フマニスム

「文芸復興」と呼ばれるように、十四世紀イタリアから全ヨーロッパに波及した古典研究を中心とする芸術、哲学、神学分野での刷新運動の総称。また、神学のような専門学ではなく、その基礎学とされる人文学の専門家の研究を意味することから、人間学中心の精神(フマニスム)の学問伝統ともいえる。ギリシャ・ローマ古典およびキリスト教古典(聖書と教父)の研究から、時代の批判精神となり、後の宗教改革と結び付く。ほとんどのプロテスタント宗教改革者は総会議至上主義者であり、ルネッサンスの学的伝統下で形成されたことが銘記されよう。